【教案・文法解説】「〜てくる」徹底攻略!初級から中級までの全用法まとめ・「〜ていく」との違い・学習者が落としがちな盲点と指導法
1. タイトル&リード文(導入部)
初級の日本語授業で「〜てくる」を教える際、多くの若手・現役講師が次のような壁にぶつかります。
- 「『〜てくる』にはたくさんの意味があるけれど、どの順番で整理して導入すれば混乱しないか?」
- 「対概念である『〜ていく』との違いを、どう視覚的・概念的に図解して教えればいいのか?」
- 「なぜ学習者は『帰る』や『出る』を動詞単独で使い、『帰ってくる』『出てくる』のような『〜てくる』の共起表現を落としてしまうのか?」
文法書には書いてあっても、実際の教室で学習者の「なぜ?」に答え、自然な発話を促す教案を作るのは容易ではありません。
この記事を読むことで、以下のポイントが明確に解決します。
- 「〜てくる」の6つの意味を4大カテゴリへ網羅的に整理・体系化
- 「話者の視点(カメラの位置)」を軸にした「〜てくる vs 〜ていく」の明確な比較表
- 母語話者コーパス(JASWRIC)と学習者コーパス(I-JAS)のデータから紐解く学習者の回避・誤用原因と指導法
- 明日からの授業ですぐに使える導入シチュエーション、T-S(教師・学生)発話スクリプト、板書レイアウト案
それではまず、「〜てくる」の根底に流れるコア・イメージと、全用法の体系的な整理から見ていきましょう。
2. 「〜てくる」の全貌!4大用法(6つの意味)の体系的整理
「〜てくる」の文法的意味は多岐にわたりますが、すべての根底には**「話し手(または現在の基準地点)に向かって対象・時間・状態が近づいてくる」**というコア・イメージが存在します。
ここでは、初級テキストで分散して提出される6つの意味を、概念ごとに4つの大カテゴリへ再合成して整理します。初学者にもわかりやすいよう、言語学用語のやさしい言い換え例とルビ(ふりがな)付きの例文を添えて解説します。
4大用法と6つの意味の分類表
- 用法①:空間的移動(物理的アプローチ)【やさしい言い換え:目に見える動き】
- (1)往復・継起(〜て、ここに戻る)
- (2)対象の接近・移動(話し手に近づく)
- (3)手段・身なり・平行動作(どんな様子で来るか)
- 用法②:時間的継続(過去から現在への蓄積)【やさしい言い換え:昔から今まで】
- 過去の起点から現在までの動作・状態の継続
- 用法③:状態変化・現象の出現【やさしい言い換え:なかったものが現れる・変わる】
- (1)自然現象・生理現象・感情の発生(変化の開始)
- (2)出現・知覚(目や耳に入ってくる)
- 用法④:談話・心理的視点【やさしい言い換え:話題を投げる・心の中で近づく】
- 話題の提供・心理的接近
2-1. 用法①:空間的移動(物理的アプローチ)
(1)往復・継起(けいき)
- やさしい言い換え: 「〜て、ここに戻る」/「他の場所で動作をしてから来る」
- 概念解説: 今いる場所から一度離れて別の場所で動作を行い、再び今の場所に戻ってくる動作を表します。
- トイレに行(い)ってきます。
- 牛乳(ぎゅうにゅう)がないので、買(か)ってきます。
- コップがないので、取(と)ってきます。
- 地図(ちず)を見(み)てきますから、ちょっと待(ま)っていてください。
- 車(くるま)を駐車場(ちゅうしゃじょう)に止(と)めてきますので、ここで待(ま)っていてください。
- 変(へん)な音がしたので、ちょっと見(み)てきますね。
- ケーキを買(か)ってきたよ。(※他の場所でケーキを買う動作をしてから、ここに来た)
- 傘(かさ)を電車(でんしゃ)の中に忘(わす)れてきた。
- 本屋(ほんや)でガイドブックを買(か)ってきたよ。
- たくさん練習(れんしゅう)してきたから、きっと大丈夫(だいじょうぶ)!
(2)対象の接近・移動
- やさしい言い換え: 「離れたところから話し手に向かって近づく」
- 概念解説: 話し手から離れた位置にいた人や物体が、話し手(または話者の設定した基準点)に向かって物理的に移動・接近してくる現象です。
- 鳥(とり)が南(みなみ)の方(ほう)から飛(と)んできた。
- 友達(ともだち)を乗(の)せた船(ふね)が近(ちか)づいてきた。
- 大きいカブトムシがこちらに向(む)かってきた。
- 棚(たな)から本(ほん)が落(お)ちてきた。
- 授業(じゅぎょう)が終わって、学生(がくせい)が教室(きょうしつ)から出(で)てきた。
- 久しぶりに父(ちち)から電話(でんわ)がかかってきた。
- 駅(えき)が近(ちか)づいてきた。
(3)手段・身なり・平行動作
- やさしい言い換え: 「〜しながら来る」/「〜を着て来る」/「移動するときの手段・態度」
- 概念解説: 目的地へ移動してくるときに、どのような動作、交通手段、または着衣・装いなどの態勢を伴ってやってきたかを表します。
- ヤトモンキー先生(せんせい)は走(はし)ってきました。
- 駅(えき)までタクシーに乗(の)ってきた。
- ここまで歩(ある)いてきました。
- 寒(さむ)かったので、コートを着(き)てきた。
- 今日(きょう)は大事(だいじ)な面接(めんせつ)があるので、スーツを着(き)てきた。
- 故障(こしょう)した車(くるま)を修理屋(しゅうりや)まで押(お)してきた。
- ここまで急(きゅう)な坂道(さかみち)を登(のぼ)ってきた。
2-2. 用法②:時間的継続(過去から現在への蓄積)
- やさしい言い換え: 「過去から現在までの時間の流れ」
- 概念解説: 過去のある時点(起点)で始まった動作や状態・変化が、中断することなく現在まで引き継がれ、積み重なってきた経過を表します。
- 5年前(ねんまえ)から英語(えいご)の勉強(べんきょう)を続(つづ)けてきました。
- 先人(せんじん)たちがこの伝統(でんとう)を代々(だいだい)守(まも)ってきた。
- 子(こ)どもの数(かず)が減(へ)ってきています。
- JLPTを受験(じゅけん)する外国人(がいこくじん)が増(ふ)えてきた。
- 大学(だいがく)を卒業(そつぎょう)してから、ずっとこの会社(かいしゃ)で働(はたら)いてきた。
- 日本(にほん)の伝統的(でんとうてき)な文化(ぶんか)は何百年(なんひゃくねん)も続(つづ)いてきた。
- 日本人(にほんじん)は昔(むかし)から魚(さかな)を食(た)べてきました。
- 日本語(にほんご)の授業(じゅぎょう)はだんだん難(むずか)しくなってきました。
2-3. 用法③:状態変化・現象の出現(無➔有、不可視➔可視、潜在➔顕在)
(1)自然現象・生理現象・感情の発生
- やさしい言い換え: 「自然に起こる変化・心や体の変化」
- 概念解説: 話者のコントロール(意志)が及ばないところで、ある状態から別の状態へと変化が始まったり、生理・感情的反応が生じたりすることを示します。
- 自然現象の発生
- 雨(あめ)/雪(ゆき)が降(ふ)ってきた。
- 風(かぜ)が吹(ふ)いてきた。
- 外(そと)が暗(くら)くなってきた/曇(くも)ってきた。
- 気温(きおん)が下(さ)がってきた/寒(さむ)くなってきた。
- 生理現象の発生
- お腹(なか)が空(す)いてきた/痛(いた)くなってきた。
- のどが渇(かわ)いてきた。
- 眠(ねむ)くなってきた。
- 鼻水(はなみず)/血(ち)が出(で)てきた。
- 緊張(きんちょう)して汗(あせ)が出(で)てきた/かいてきた。
- 心臓(しんぞう)がドキドキしてきた/バクバクしてきた。
- 手(て)が震(ふる)えてきた。
- 悲(かな)しくて涙(なみだ)が出(で)てきた。
- 感情・心理現象の発生
- 悲(かな)しくなってきた。
- こわくなってきた。
- やる気(き)が出(で)てきた。
- その話(はなし)を聞(き)いて、怖(こわ)くなってきた。
- あのことを思(お)い出(だ)したら、腹(はら)が立(た)ってきた。
- 一人(ひとり)で夕(ゆう)ご飯(はん)を食(た)べていると、なんだか悲(かな)しくなってきた。
- 嬉(うれ)しくなってきた/楽(たの)しい気持ち(きもち)になってきた。
(2)出現・知覚動詞との共起
- やさしい言い換え: 「目や耳、頭の中に現れる」
- 概念解説: これまで存在しなかったものや、隠れて見えなかったもの、聞こえなかった音が、話し手の認識圏内(視界・聴覚・感覚・思考)に入ってくることを表します。
- 赤(あか)ちゃんの歯(は)が生(は)えてきた。
- 富士山(ふじさん)/月(つき)が見(み)えてきた。
- 太陽(たいよう)が昇(のぼ)ってきた。
- やっと花(はな)の芽(め)が出(で)てきた。
- 歩(ある)いていると、ウナギを焼(や)くいい匂(にお)いがしてきた。
- 隣(となり)の家(いえ)から、ピアノの音(おと)が聞(き)こえてきた。
- 思い出(いで)があふれ出(で)てきた。
- 様々(さまざま)なアイデアが浮(う)かんできた。
2-4. 用法④:談話・心理的視点(話題の提供・心理的接近)
- やさしい言い換え: 「会話の場に話題を出す」/「気持ちが理解へ近づく」
- 概念解説: 物理的な空間移動だけでなく、対話の場へ話題を提示して相手に投げかけたり、心情や認知状態が対象へと近づいていったりする精神的・語用論的機能です。
- 「日曜日(にちようび)に、ディズニーランドに行(い)ってきたんですよ。」(※単に「行きました」と言うよりも、会話の場に新鮮な話題として投げかける働きを持つ)
- ようやく、この家電(かでん)の構造(こうぞう)・仕組み(しくみ)がわかってきた。(心理的接近・認知変化)
- うれしくて、踊(おど)りたくなってきた。(感情の高まり)
- 気分(きぶん)が高揚(こうよう)してくる。
このように、「〜てくる」の根幹には常に「話者(または現在)への接近」という一貫したイメージが存在します。では次に、その対照概念である「〜ていく」との違いを構造的に比較してみましょう。
3. 【徹底比較】「〜てくる」 vs 「〜ていく」
「〜てくる」が話し手への接近・出現・過去からの蓄積を表すのに対し、「〜ていく」は話し手からの遠ざかり・消失・未来への継続を表します。この相違を「時間軸」と「状態変化・知覚圏」の2軸で整理します。
3-1. 時間軸での対比(過去➔現在 vs 現在➔未来)
時間軸において、現在の話題(基準点)を中心に「過去から現在へ伸びるベクトル」が「〜てくる」、「現在から未来へ伸びるベクトル」が「〜ていく」です。
時間的連続性の例
- これまでは一介のサラリーマンとして生きてきた。(過去➔現在)
- これからは、作家として生きていくつもりだ。(現在➔未来)
- 彼はこれまでずっと絵を描き続けてきた。きっと死ぬまで描き続ける(〜ていく)のだろう。
基準点(●)による形式の変化
| 基準点(●)の位置 | 過去➔基準点(移動・変化の到来) | 基準点➔未来(移動・変化の進行) |
| 未来(将来の基準) | Vてくる → ● | → Vていく |
| 現在(いま) | Vてきた → ● | → Vていく |
| 過去(過去の基準) | Vてきていた → ● | → Vていった |
3-2. 状態変化・知覚圏での対比
現象や状態の変化において、「〜てくる」は話者の認識圏内に入るプロセス(無➔有、小➔大、隠➔顕)を描き、「〜ていく」は認識圏から消え去るプロセス(有➔無、大➔小、顕➔隠)を描きます。
- 無➔有(出現): 月が見えてきた。(見えない状態から現れた)
- 有➔無(消失): 強風で、桜の花びらが、だんだんなくなっていく。(存在したものが消えていく)
- 小➔大(激化): 地球温暖化が進み、どんどん暑くなっていく。/雨が強くなってきた。
- 遠ざかり: 年齢を重ねるということは、皆が去っていくということだ。
「〜てくる」と「〜ていく」の対比一覧表
| 〜てくる(視点が近づく・出現・過去➔現在) | 〜ていく(視点が遠ざかる・消失・現在➔未来) |
| 【時間軸の方向】 過去 ➔ 現在(蓄積・到来) | 【時間軸の方向】 現在 ➔ Future(継続・進行) |
| 【状態変化の方向】 無 ➔ 有 / 小 ➔ 大 / 隠 ➔ 顕(認識圏への進入) | 【状態変化の方向】 有 ➔ 無 / 大 ➔ 小 / 顕 ➔ 隠(認識圏からの離脱) |
| 【視点・知覚圏】 話し手に向かって届く・現れる | 【視点・知覚圏】 話し手から離れて消える・遠ざかる |
| 【生まれる】 ○(例:桃から生まれてきた) | 【生まれる】 ×(生まれ去ることはないため非文) |
| 【死ぬ】 ×(自分のもとへ死んでくることは通常ない) | 【死ぬ】 ○(世を去っていく表現として成立) |
| 【見える / 聞こえる】 ○(例:スカイツリーが見えてくる) | 【見える / 聞こえる】 ×(認識圏へ入る知覚動詞とは共起しない) |
| 【遠ざかる】 ×(自立語自体が「離れる」ため矛盾) | 【遠ざかる】 ○(例:船が遠ざかっていく) |
語彙・文法的な対比を押さえたところで、続いて学習者コーパス(I-JAS)の分析データをもとに、現実の教室で起こっている誤用や不自然さの原因に迫ります。
4. 現場で本当に起こる!「学習者の誤用&不自然な日本語の原因」(コーパス分析)
日本語母語話者コーパス(JASWRIC:小中高大生700名による作文)と、多言語学習者コーパス(I-JAS:海外・国内の学習者データ)を用いた最新の研究(夏・玉岡 2025)から、学習者が「〜てくる」を回避・誤用するリアルな実態と盲点が明らかになっています。
4-1. 盲点①:動詞単独使用による「不自然さ」(共起の回避)
学習者は、「出る」「持つ」「飛び出す」「帰る」といった移動・変化動詞を動詞単独で使いがちであり、「〜てくる」を付加したコロケーション(共起表現)を著しく回避する傾向があります。
- × 不自然な例(学習者): 「でも、二人はバスケットを開いたら、犬が出ました。」(CCH27)
- ○ 自然な表現(母語話者): 「そして、場所がきまって座ろうとしたとき、犬が出てきました。」(G01_006)
- × 不自然な例(学習者): 「ケンは梯子を持って、それに登りました。」(KKD43)
- ○ 自然な表現(母語話者): 「ケンは、近所から、はしごを持ってきてしまいました。」(G01_001)
- × 不自然な例(学習者): 「ケンは夜遅く家に帰りました。」(KKD23)
- ○ 自然な表現(母語話者): 「ケンがしごとから帰ってきて、ドアを開けようとすると…」(G02_040)
コーパスデータが示す母語干渉の背景(言語類型論的アプローチ)
コーパスのカイ二乗検定および分類木分析(決定木分析)によると、共起の有無に最も強く影響を与えるのは**「動詞の種類」であり、次いで「日本語能力」と「母語的背景」**が関与しています。
【分類木分析(決定木)に見る共起率の分岐構造】
全体の「〜てくる」共起率:24.3%
├── 動詞「出る」:共起率 43.5%(比較的高く母語話者に近い)
├── 動詞「持つ・飛び出す」:共起率 19.1%
│ ├── 日本語能力レベル 2-3(初級):共起率 11.4%
│ └── 日本語能力レベル 4-5(中上級):共起率 24.7%
│ ├── 韓国語母語話者:共起率 31.6%
│ └── 中国語母語話者:共起率 19.5%
└── 動詞「帰る」:共起率 9.2%
├── 韓国語母語話者:共起率 21.4%
└── 中国語母語話者:共起率 1.2%(激しい回避)
対照言語学・言語類型論(Talmy 2000)の観点から整理すると、この共起率の差には明確な理由があります。
- 中国語母語話者の回避原因(「衛星枠付け言語」の干渉): 中国語は、運動の経路や方向・結果を動詞の後部に補語として明示する**「衛星枠付け言語(satellite-framed languages)」**です(例:「跳出来」「回家」)。中国語母語話者は動補構造で動作と経路を一体的に処理するため、日本語のように「飛び出す(V1)+て(接続)+くる(V2)」と二段階で経路や話者視点を表す形式になじみが薄く、「帰る」「出る」を単独動詞で使い、「〜てくる」を著しく回避します。
- 韓国語母語話者の高共起率(「動詞枠付け言語」の共通性): 日本語と韓国語はともに**「動詞枠付け言語(verb-framed languages)」**に属します。韓国語には「〜아/어 오だ(〜てくる)」(例:뛰어오だ=走ってくる)という日本語と構造的・機能的に直接対応する補助動詞構造が存在します。そのため、韓国語母語話者は母語の構文を手掛かりにして、早期から「飛び出してくる」「帰ってくる」といった共起表現を自然に選択できるのです。
4-2. 盲点②:段階的変化と副詞の共起ミス
「〜てくる」や「〜ていく」が表す変化は、**徐々に進む過程(アスペクト的変化)**です。そのため、過程を表す副詞との相性は良いですが、完全な終了・一瞬での完了を表す副詞とは矛盾が生じます。
- × 誤用例: 「この強風で、桜の花びらが、すっかりなくなっていく。」
- ○ 正用例: 「この強風で、桜の花びらが、だんだんなくなっていく。」
- × 誤用例: 「急にすっかり寒くなってきた。」
- ○ 正用例: 「急にだんだん寒くなってきた。」/「急に寒くなってきた。」
4-3. 盲点③:未来の事態に対する「〜てくる」の誤用
「〜てくる」は過去から現在への到来・蓄積を表すため、これから未来に向かって展開する事態に対して使用すると誤用になります。
- × 誤用例: 「来年もこの仕事を続けてきます。」
- ○ 正用例: 「来年もこの仕事を続けていきます。」
- × 誤用例: 「これからはもっと練習してきます。」
- ○ 正用例: 「これからはもっと練習していきます。」
それでは、これらの文法知識と誤用分析を踏まえ、実際に教室でどのように導入・指導すればよいか、具体的な授業案のヒントを見ていきましょう。
5. 教室での導入・板書・発話アイデア(教案のヒント)
5-1. 感覚的理解を促す導入シチュエーション
シチュエーション①:【状態変化・出現】「雨が降ってきた!」
教師が教室の窓の外を眺め、空が暗くなり、ポツポツと雨が降り始める様子をジェスチャーで示します。
T: (窓の外を見て)あ、空が暗くなりましたね。ポツポツ…あ!みなさん、見てください。雨です! T: 「あ、雨が降ってきた!」
シチュエーション②:【生理現象・状態変化】「お腹が空いてきた…」
時計を見て、お腹を押さえながら辛そうな表情をします。
T: 今、12時半です。朝9時からずっと勉強しましたね。あ〜、(お腹を押さえて)お腹が… T: 「お腹が空いてきた…」
シチュエーション③:【時間的継続】「3年間、勉強してきた」
黒板に2023年から現在までのタイムラインを描きます。
T: 私は2023年に日本へ来ました。2023年、2024年、2025年、2026年…今も日本語を勉強しています。 T: 「日本へ来てから今まで3年間、日本語を勉強してきた。」
5-2. 教師の発話例(T)と学生の想定リアクション(S)
以下は、友達が落ち込んでいる状況から復活する文脈を用いた、教室での対話練習スクリプトです。
T: みなさん、友達のS1さんが元気がありません。「どうしたの?」と聞くと、「失恋したんだ…」と言いました。 T: 私は「辛いね。美味しいものを食べて、寝た方がいいよ!」と言って、食べ物を与えて寝かせました。 T: 翌朝、S1さんに「調子はどう?」と聞きます。S1さん、どうですか? S1: ありがとう。なんか……元気が出ました? T: うん!「元気が出ました」もいいですが、昨日から少しずつ気持ちが変わって、今元気な状態が現れましたね。「てくる」を使って? S1: あ!「ありがとう。なんか元気が出てきたよ!」 T: すばらしい!「気持ちが楽になってきたよ」「落ち着いてきたよ」「頭がスッキリしてきたよ」も使えますね!
【トレーナー解説】 ここでのポイントは、教師が単に正答を教えるのではなく、感情の変化(無➔有、潜在➔顕在)を学生自身に意識させて「〜てきた」を引き出している点です。「単なる過去の事実(〜出ました)」と「実感としての現象発生(〜出てきた)」のニュアンス差を感覚的に掴ませることができます。
5-3. 「視点(カメラの位置)」を意識させる板書レイアウト案
板書では、**「話者の視点(カメラの位置)」に向かって空間・時間・状態が飛び込んでくる矢印(←)**を大きく描くことが極めて効果的です。
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【板書案:「〜てくる」の視点イメージ】
[ 過去 ] ─────────────> [ 現在 (話し手・カメラの場所) ]
[ 離れた場所 ] ──────────> [ ここ (話し手の位置) ]
[ 無 / 隠れた状態 ] ────────> [ 出現 / 認識圏内 (有) ]
( Arrow: ← )
━━━━━ 〜てくる ━━━━━
① 空間(往復・接近) : トイレに行ってきます / 船が近づいてきた / コートを着てきた
② 時間(過去→現在) : 3年間日本語を勉強してきた / 伝統を守ってきた
③ 変化(発生・出現) : 雨が降ってきた / お腹が空いてきた / 富士山が見えてきた
④ 心理(話題提供) : ディズニーランドに行ってきたんですよ
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【比較】 〜ていく ( Arrow: → 話し手から離れて遠ざかる )
[ 現在 ] ────────────> [ 未来 ] (これからも生きていく)
[ ここ ] ────────────> [ 遠く ] (船が消えていった)
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授業での導入・板書イメージが掴めたところで、最後に本記事のまとめと、明日からの授業準備に臨む皆様へのメッセージをお伝えします。
6. まとめ・授業のアドバイス
本章の要点サマリー
- コア・イメージの一貫性: 「〜てくる」のすべての用法(空間移動・時間継続・状態変化・談話機能)は、「話し手・現在の地点へ近づいてくる」というコア・イメージで統合できる。
- 対比の軸: 「〜てくる」が【過去➔現在/出現(無➔有)】であるのに対し、「〜ていく」は【現在➔未来/消失(有➔無)】を表す。
- 学習者の盲点: 特に「衛星枠付け言語」である中国語母語話者などは動詞単独(「出る」「帰る」)で済ませ、「〜てくる」の共起表現を回避しやすい。「動詞枠付け言語」としての日本語の視点とコロケーションを意識して指導することが重要。
- 副詞の制約: 段階的変化を表すため、「だんだん」等と相性が良く、「すっかり」などの完全終了を表す副詞とは共起しない。
日本語教師の皆様へ
「〜てくる」の指導は、単に「動詞のて形+くる」という接続ルールや個別フレーズの暗記を教える作業ではありません。その本質は、「日本語が事態をいかに話し手の視点(カメラの位置)から捉えて表現するか」という、日本語らしい世界観そのものを学習者に授ける鍵なのです。
「帰る」と言えば意味は通じます。しかし、「帰ってきた」と言えたとき、学習者の日本語には「待っている人への視点」や「温かいぬくもり」という感情の彩りが加わります。
母語の干渉で「〜てくる」を落としてしまう学習者に出会ったら、ぜひ「カメラはどこにあるかな?」と問いかけてみてください。あなたの情熱ある視点指導が、学習者の日本語をより豊かで自然なものへと引き上げていきます。明日の授業が、素晴らしい学びの場となりますように!





